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※この座談会には『彼方のアストラ』の物語・世界観にまつわる重大なネタバレが含まれています。
まだ最後まで読まれていない方は、伏字版をお楽しみください。

「アストラ号」に乗り合わせた少年少女たちの宇宙サバイバルSF――篠原健太先生の『彼方のアストラ』が大団円を迎えました。

舞台は民間人も惑星旅行ができるようになった西暦2063年。惑星マクパのキャンプに向かったケアード高校の9人の少年少女は、到着早々に突如現れた謎の球体によって宇宙空間に投げ出されてしまいます。奇跡的に辿り着いた宇宙船で彼らが知ったのは、自分たちが5千光年離れた場所に飛ばされてしまったという事実……。

一癖も二癖もある9人のメンバーは、時にぶつかり、絆を深めながら、生還への道を探ります。絶望的な状況の中で、無事に帰ってくることができるのか――という、王道サバイバルSFです。

実はこの『アストラ』、ミステリー好きから熱視線を送られています。ストーリーに仕込まれた大きな「謎」と綿密に張られた伏線が、「ミステリーとしてめちゃくちゃ面白い!」と評判になっているのです。

最終巻の発売前に、「『彼方のアストラ』はミステリーとしてすごいんですよ!」と叫ぶミステリーマニアに集まってもらい、本作の魅力をとことん語ってもらいました。
『彼方のアストラ』座談会参加メンバー

中澤工(なかざわ・たくみ)

ゲームクリエイター。1976年新潟県生まれ。SFサスペンス分野を中心に、アドベンチャーゲームのディレクション、プロデュース、脚本に携わる。代表作は「Ever17 -the out of infinity-」「I/O」「ルートダブル -Before Crime * After Days-」。最先端の科学知識とミステリー要素を融合させたゲームならではのストーリーが熱烈な支持を受けている。

阿津川辰海(あつかわ・たつみ)

小説家。1994年東京都生まれ。東京大学在学中。学内の文芸サークル「新月お茶の会」に所属。光文社の新人発掘プロジェクト「Kappa-Two」第一弾に『名探偵は嘘をつかない』が選出され、2017年6月にデビュー。同作は『2018本格ミステリ・ベスト10』国内第3位に選ばれた。最新作は「透明人間は密室に潜む」(ジャーロ No.62、短編)。

稲村文吾(いなむら・ぶんご)

中国語翻訳者。早稲田大学在学中はワセダミステリクラブに所属。電子書籍の個人出版による中国語短篇ミステリー翻訳シリーズ『現代華文推理系列』を2014年から2016年にかけ刊行、第17回本格ミステリ大賞(評論・研究部門)候補作となる。他の訳書に胡傑『ぼくは漫画大王』、文善『逆向誘拐』(文藝春秋)。


●「彼方のアストラ」、どこが面白い?

――『彼方のアストラ』の魅力はどこにあるでしょうか? 最初はネタバレなしでお願いします!


まずSFとしてとても読みやすくて、SFにあまり親しみがない方にも入ってきやすいつくりになっています。遥か遠い宇宙に投げ出されたアストラ号のメンバーは、母星に帰るためにさまざまな惑星を冒険することになります。その星々が、とても魅力的なんですよ。 「肉食動物がいない星」「鳥と魚ばかりの星」など、ちょっと不思議なところがあるとともに「どうしてそういう惑星なのか」のロジックがちゃんとしている。SFとしての好感度が高いです。


それぞれの惑星に、不自然なポイントがあるんですよね。そのポイントを追いかけていくと、ストーリーがぐっと動く。ただ、僕はミステリー好きの知人から「まだ『アストラ』を読んでないのか? 絶対に読んだ方がいい!」と猛烈にオススメされたことをきっかけに読み始めまして……。最初から「どんなミステリーなんだろう?」と思って読んでいました。


……実は、僕もです!


僕もまさに阿津川さんに「ミステリーなんですよ!」と言われて読み始めました。


みんなミステリーきっかけに読み始めていたんですね。よかった(笑)。でも作者名を見て「えっ、『SKET DANCE』の人じゃないですか!」とびっくり。中高生の時に読んでいて、大好きだったんです。


『SKET DANCE』、いいよね……。『アストラ』を読み始めて、「ああ、篠原先生の作品だ」としみじみ思いました。篠原作品は登場人物がすごくいいんです。少年漫画的な「努力・友情・勝利」というか、登場人物たちの魅力と成長を描いてくれる。ジュブナイルとして引き込まれているうちに、まず1巻ラストで意外な展開になる。そしてだんだん「謎」が深まっていって、4巻ではとある「共通点」が明かされる。「こ、こんなすごいものをするっと読まされていたのか……!」と衝撃を受けました。

『SKET DANCE』

ボッスン、スイッチ、ヒメコの3人で結成された「スケット団」が学園のトラブルを解決していく青春コメディ。全32巻。アニメ化もされたヒット作。



アストラ号に乗り合わせた9人の登場人物は、みんな優秀で強い子たち。冒険の中で強烈な絶望やショックがあったり、自分のつらい過去と向き合ったりしても、たくましく笑い飛ばして、前を向いて進む。その爽やかさが上手ですよね。SF的な舞台設定を使ったロードムービーで、孤独な中で少年少女が衝突したり協力したりして絶望に打ち勝つ物語で、すごくワクワクします。



●ミステリーとしてどこが魅力?



……そろそろネタバレトークでもいいでしょうか?(うずうず) 王道のジュブナイルSFとして引き付けつつ、1巻ラストで投げ込まれる不穏な爆弾。それは、9人の中に「刺客」――謎の球体を使ってみんなを遭難させた“犯人”がいるということです。一行は、生還するための冒険をするとともに、刺客の正体や目的を突き詰めなければならない。


閉鎖空間もの、宇宙サバイバルときて、「裏切り者は誰だ?」要素が来れば、否応なく盛り上がりますよね。ただ『アストラ』が変わっているのは、お互い疑心暗鬼になって傷つけあったり衝突したりするシーンに全然ならない!(笑)


中澤さんといえば『Ever17』や『ルートダブル』など、閉鎖空間もののゲームを作ってらっしゃいますよね。やはりこういう舞台設定だと、ギスギスするのが普通ですか?


うーん、そうですね……最初に出した『Ever17』は、絶望的な閉鎖空間でも「そんなことより楽しくしようよ!」とみんな意外と気楽に過ごすシーンを書きました。でも「極限状況なのに……」という反響をもらって、次回作では徹底的に追い込んでお互いにギスギスさせてみました。対照的な作品を作ってみて、僕は「閉鎖空間ものでは登場人物を追い込むのが本来なのかな」と考えていたんですが、『アストラ』は「みんなが明るく過ごす閉鎖空間もの」を非常に上手にやっている。作り手として「こうすればよかったんだ……!」と勉強になりました。


キャラクターの性格がいい方向にまとまっているからだと思いますね。「刺客」の存在に動揺するけれど、カナタのリーダーシップやアリエスの天真爛漫さで、登場人物たちが「生き残るために力を合わせよう」と前を向く。さらに関係が深くなってくると、「仲間たちを信じたい」という思いになっていく。これは読者も同じで、「誰も刺客であってほしくない」という気持ちになってくる……。


そうですよね。キャラクターがそれぞれ秘めている過去が明らかになるたびにキャラを好きになっていくし、その「秘密」も何回もひっくり返されるので、終盤は「本当は刺客なんていないんじゃないか」とまで疑うようになる(笑)。信じたくなってしまうんですよね。


ただ、通信機が人為的に壊されていたり、タイミングよく出てくる謎の球体の存在があったりで、刺客は確かに存在していて、なんらかの狙いを持って動いていることも分かるので、「犯人当て」はできるように作ってあるのがニクいところ。


ミステリー好きが集まる「全日本大学ミステリー連合」という会合で、『アストラ』のことをみんなで話していたんです。そこで4巻までを読んだ人が「もう犯人を探さなくてもいい話になっているじゃないか。だって、誰が犯人でも胸を張って帰れるんだから」と言っていたのが印象的で。確かにそれくらい仲間の絆は深まっているんだけど、まだ明かされていない「犯人の物語」がある。それを一切おろそかにしないんですよね。


●「犯人当て」だけじゃないミステリー

――『アストラ』は、「犯人当て」以外にもミステリー要素がたくさんありますね。一番「うわーっ」となったのはどこですか?



僕はやっぱり9人のミッシングリンク――「全員が親のクローンである」かな。猛烈にショックを受けました。親たちは成長した子どもたちの身体と入れ替わり、「若返り」を図ろうとしているというすごい事実が明らかになる。

『ミッシングリンク』

隠された共通点。事件に巻き込まれた人たち同士、一見バラバラで何の関係性もないように見えて、実はある共通項を持っていたことが明らかになるようなミステリーを「ミッシングリンクもの」と呼ぶ。



ミッシングリンクでこんなに驚かされるのはそうそうないのでは。


うんうん、中盤に「ゲノム管理法」の話が出てきたり、単為生殖の星のエピソードでクローンの話が書いてあったりで、「きっと9人のうち誰かがクローンなんだろう」と読んでいる読者は多かったと思うんです。僕もクローンものは引き付けられるので、最初から「きっとこの中にクローンが1人くらいいるんだろうなー」と疑っていました。でもまさか……全員とは!


中澤先生の作品にもよくクローンが出てくる印象です。


そうですね、クローン一卵性双生児がよく出てきます(笑)。「アストラはミステリーなんだ」と思いながら読んでいたので、1話からめちゃくちゃ深読みしていたんですよね。僕はいつもそうで、ミステリーものは「作者が明かすよりも先に答えを見つけてやるぞ!」と挑戦するんですが……いつも負けちゃう。『アストラ』も完全敗北でした。


本当にミスディレクションがうまいんですよ! 20話(3巻収録)から始まる惑星での冒険の冒頭で「この惑星の生物は単為生殖」とクローンの話が出てくる。でもそこでは、仲間同士の恋バナやちょっとしたギャグシーンにつながって、読者に疑問を抱かせない。物語が伏線をうまく隠しているんです。

『ミスディレクション』

誤った方向に推理を誘導し、真相から目を逸らさせること。犯人が探偵に仕掛けるものもあれば、作者が読者に仕掛けるものもある。



9人はそれぞれ親との間に問題を抱えていて、惑星を巡るごとにその問題と彼らの悩みが明らかになる仕組みになっています。読者は最初、「親に愛されていない子どもたちが心を開くお話なんだ」と納得してしまう。でも実は……。


もう一段階裏があり、反転する。ユンファのお話なんてまさにそう。ユンファは歌うことが好きだけど、母親から「あなたは歌わなくていい」と言われ続け、自分に対する自信を失っていく。親が子どもの可能性を信じていなくて、ダメになってしまう子どもの話として一度は回収される。でもクローンであることが判明したあとだと、「ユンファが母親のクローンであり、母親は入れ替わりを狙っているので、ユンファ自身に目立ってほしくない」というもう1つの恐ろしい真実が明らかになる。


カナタがかつて遭難したときに父親が心配していたのも、「息子を心配していた」のではなく、「将来自分の身体になるものを案じていた」ということが後から分かるんですよね。アリエスの正体もそう。1巻でシャルスが「知り合いに似てる」と声をかけるのは重大な伏線なんですけど、シャルスのイケメンで誠実だけどちょっとチャラっぽくもあるキャラクターに合っている会話なので、違和感がない。


「シャルスはちょっとナンパっぽいんだなあ」とキャラの特徴を説明する描写として一回流しちゃうんですよね。でも実はアリエスを特別視していて、大きな意味を持っている会話だということがあとでわかる! キャラクター立てとストーリーが密接につながっている。


『SKET DANCE』も実はそう。一回ギャグとして出てきたキャラの特徴を、シリアスなネタとしてもう一度伏線回収するんですよ。


ギャグっぽい特徴を持つ人が、シリアスな問題を抱えたらどうなるのか。もしくは、シリアスな状況に陥っているからこそ、ギャグになるような特徴が出てくるのか……。篠原先生はそこをキャラ設定に組み込む作家さんだと思います。『SKET DANCE』のときもミステリーとしてすごい仕掛けがあって、僕はそれで新作のネタを1つボツにしました……。

――現役ミステリー作家のネタに張り合うくらい、ミステリーとしてすごいんですね。



すごいです。しかもマンガという媒体なので、絵の手掛かりが多く、映像的なトリック。読み返したら「あっ!」となるように作ってあります。


●『アストラ』に秘められた謎――4巻の衝撃

――さらに4巻ではものすごい事実が明らかになり、ネットでも話題になりました。




クローンがミステリーとしての驚きだとしたら、4巻のラストは惑星SFとしての驚きでした! クローンについては読者も登場人物も驚きましたが、4巻ラスト――「実はカナタたちの母星は地球ではない」というのは、読者はびっくりするけど登場人物は当たり前だと思っていたひっくり返し。


確かにいっぱい違和感はあって、「なんかおかしいな」と引っかかってはいた。けどいつのまにか自然に納得させられてましたね……。


そう、違和感はあるんですよね。西暦2063年の世界だけど、明らかに技術レベルが進歩しすぎている。しかも1960年代に「第三次世界大戦が勃発している」なんてさらっと書いてあるんです。だから最初は「地球のパラレルワールドなんだろうな。もしかしたら地球じゃないかもしれない」と深く考えなかった。ところが4巻で、コールドスリープしていた地球の宇宙飛行士であるポリ姉を見つけたことで、「やっぱり舞台は地球なんだ。でも、あれ……?」と。


実はカナタたちの住んでいる惑星は「アストラ」。カナタたちは、地球から惑星アストラに移住してきた元地球人子孫。かつての母星だった地球は、隕石衝突して人間住める環境になっていない。祖父母世代が移住の事実を隠蔽し、歴史を改ざんしたために、子ども世代は地球のことを知らない……。読者は「そういえば、カナタたちは1回も『地球』って言ってない!」とびっくりするわけです。しかも、1巻の最初に見た「生命の絶えた星」地球だったことが明らかになる。


アストラ号は自分たちの母星――惑星アストラを目指して旅をしているけれど、その旅とはきっと、かつて移住の夢を見た人類が惑星アストラを発見するまでの冒険の道のりを、もう一度辿っていっているんですよね。「スタートがゴールだった」という話に弱いので、ものすごくぐっときました。


でも1巻のヒントをていねいに拾っていけば、アストラと地球の謎にもしかしたら気付けたかもしれない……。


ずっと、「なんで年代設定がこんなに中途半端なんだろう?」と疑問に思っていたんですよ。1巻1話時点で「西暦2063年」。普通だったらもっとキリのいい数字にしたり、連載開始年にしたりするでしょう。僕はかなり数字にこだわりが強い方なので、すごく気になって。


中澤先生は「7」「11」「17」などキーになる数字を決めて、物語に組み込んでいますよね。


そうなんですよ。だから変だなって。でも真相が明らかになって、キューバ危機の翌年――1963年を起点とすると、ちょうどキリのいい数字だとわかる。さらに『アストラ』の世界では、歴史を改ざんするために「100年ずらす」という世界ぐるみの仕掛けが行われている。その設定やトリックから逆算して、時代を決めていたわけです。考えてみれば、これだけ綿密に伏線を張り巡らせている『アストラ』に意味のない数字が出るわけがなかったです(笑)。


●刺客の正体は?

――さて、最終5巻では、ついに刺客の正体が明らかになりました。ちなみにみなさん、誰だか推理できていましたか?


(一同、首を振る)


ザックだろうと思っていましたね。犯人当てのポイントは「解き筋」。解決篇の直前――「読者への挑戦状」の前に出てきた手がかりを考えていけば、犯人がわかります。


なるほど。39話でカナタが、最初にワームホールに飲み込まれたときのことを回想するシーンがあって、刺客の正体がわかったことをほのめかす。そこにミステリー小説なら「読者への挑戦状」があったということですね。


ただ、僕は違う解き筋をつかんでしまったんですよ……。惑星アストラに到着する直前で刺客がみんなを抹殺しようとしたのが最後の手掛かりだと考えてしまった。僕は「この犯人は1人になっても帰れる人物なんだ」と考えて、宇宙船の操縦能力があるザックだと特定していました。意外とザックは過去を描き込まれていないし。


僕もザックシャルスだろうなと思っていたけど、確信を持って特定できてはいなかったです……。


刺客を罠にはめて正体を見抜く回で、カナタが作戦を練りましたよね。そこでザックとシャルスを囮にする。でもカナタの性格を考えると、自分が囮になりそうじゃないですか? だからここでハメようとしているザックとシャルス、どちらかが刺客なんだろうなと。


なるほど、演出面から読み取れる。


刺客を追い詰めるシーンは本当によくて、刺客が「どう動けばいい!?」と心情を吐露しているコマがあるんですよ。初読時は「刺客を追い詰めるためにどう動けばいいのか」と読めるけれど、刺客の正体が分かったあとは「この状況を打破するためにどう動けばいいのか」と考えていたことがわかる。ミステリーにおけるダブルミーニングが大好きなので、ゾクゾクしましたね……。


でも、正体がわかったあとに刺客のこれまでの言動を振り返ると、涙なしには見れないんですよね。クローンたちの暗殺計画を諦めてはいないけれど、この旅を刺客自身楽しんでしまっている。それでも任務を果たさなければいけない――という、重みと苦悩を備えた物語になっています。


刺客の苦悩を取り除くためにカナタが取った行動もじーんとしました。1巻でのシーンや台詞を意外な形で使っていて、アストラ号の旅路と同じく、読者も「1周してきた」感じがある。


最終巻のカナタはまさしく「主人公」でしたね。ヒーローというのは、普通の人ができないことをするから、人の心を動かす。……僕、5巻を読むのが寂しくて。「もう終わっちゃうんだ。終わらないでほしい。この旅がずっと続いていればいいのに……」と思ったんです。ミステリーとして読んでるのに、結末が読みたくないなんて初めてです(笑)。


ちょっとわかります……。でもそれはアストラ号の8人と、刺客も同じですよね。読者と登場人物の気持ちがシンクロしている。ただ、このラストは冒険の過程があったからこそたどり着けたエンドだと思うんですよね。もし1巻の時点で刺客の正体がわかってしまっていたら悲劇にしかならなかった。彼らが冒険を通じて成長してきたからこそ、真実と向き合って大団円を迎えられたと思います。


冒険をしながら、惑星やメンバーの過去の「謎」を解くことが、成長物語になっていますね。冒険と謎解きに意味があって、単純な犯人当てじゃない。アストラ号のメンバーが味わってきた困難にはちゃんと意味があって、信じたくないような苦い真実も受け入れて向き合って、力強く生きていけるから、ベストの決着にたどり着けられる。


『アストラ』がすごかったのは、誰も死なないし脱落しないのに、緊迫感があることです。『アストラ』はそういう手を一切使わずに読者をハラハラさせるから、面白いし、作り手として見事!


それでいてキャラクターは明るいんですよね。クローンをはじめ、重い話はたくさんあるけど、「今を生きよう」とキャラクターが前を向くから全然重くならない。重いネタでもすぐに笑い飛ばしてギャグにしちゃう(笑)。それは篠原先生の少年漫画的な特徴というか、「残酷な過去ではなく幸福な未来を生きていこう」という力強いエネルギーを感じます。


この作品全体に、「血よりも濃いものがある」というメッセージがありますよね。9人はクローンだけど、「家族」と呼べるような深い関係を築いたために、親世代とは180度違った人間に成長できる。生まれた時の境遇がどうであれ、人は変われるから、絶望しなくてもいい――少年漫画としてのメッセージも爽やかですね。


●「絶対にもう一回読んでほしい」

――それでは最後に、みなさんと同じく『彼方のアストラ』ファンや、これから読む人たちに向けての思いの丈を話してください!



『アストラ』はミステリーです!(きっぱり) だからミステリーがもともと好きで意外なホワイダニットが見たい人なら絶対に読むべき。ミステリーにそこまで親しみがない人でも、まず青春物語として気楽に読み進めてほしい。読み始めたら、嫌でもこの船を襲っている悪意に惹かれるはずです。

『ホワイダニット』

「なぜ●●したのか?」という動機が謎となる物語のこと。「誰が犯人なのか?」が主軸となる場合は「フーダニット」と呼ばれる。



力強いキャラクターが意志を持ってどんどん前に進んでいくので、あっという間に読めてしまいますね。そして一周読んだら、絶対にもう一回読んでほしい。発見がたくさんある。


読み返せば読み返すほどびっくりする。この座談会の前に1巻をもう一度読み返してみて、「うわっ、ここにも伏線がある!」とひっくり返りました。たぶんまだ気づけていない伏線がありそう(笑)。


「犯人を見抜いてやるぞ!」というよりは、少年少女の心に寄り添って冒険物語を楽しんでいくのがいいですよね。登場人物と同じ目線で読めば、ミスディレクションにも絶対に引っかかるので面白いと思う(笑)。宇宙旅行もすごくワクワクしますよね。子どものころ、宇宙百科事典を夢中になって読んでいたのを思い出しました。未知は怖いことではなくて、楽しいことだと改めて教えてくれる作品です!


(聞き手・構成:アオヤギミホコ)


●巻末おまけ

3人が「この作品を好きならアストラを読んでほしい」もしくは「アストラの次はこの作品を読んでほしい」と挙げた作品と一言をご紹介。


<漫画>
・『11人いる!』(萩尾望都)
宇宙船に紛れ込んだ謎の「11人目」は誰か。間違いないです。

・「ミノタウロスの皿」(『藤子・F・不二雄異色短編集1』収録)
私たちが住む地球とは違う常識を持っている星を描いた名作。

・「イヤなイヤなイヤな奴」(『藤子・F・不二雄異色短編集3』収録)
藤子・F・不二雄作品にはSFの全てが詰まっている。

・『ヴァンパイア十字界』(作:城平京、画:木村有里)
ファンタジーに見せかけて壮大な大仕掛けが隠されている。

・『火の鳥』(手塚治虫)
いろんな宇宙や惑星や哲学を魅力的に描く大傑作。


<小説>
・『星を継ぐもの』(ジェイムズ・P・ホーガン)
SFミステリーとして欠かせない1冊。

・『たったひとつの冴えたやりかた』(ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア)
宇宙船を舞台にしたオールタイムベスト級のSF。

・『冷たい方程式』(トム・ゴドウィン)
『たったひとつの~』と同じく、SFの題材を扱いつつ人間をテーマにしている。

・『ゴールデン・フリース』(ロバート・J・ソウヤー)
宇宙船を舞台に「なぜAIは人を殺したのか?」のホワイダニットが描かれる。

・『宇宙探偵マグナス・リドルフ』(ジャック・ヴァンス)
宇宙を駆ける探偵物語。とんでもない展開になる。

・『リピート』(乾くるみ)
タイムトラベルした10人の男女が次々と襲われる。ミッシングリンクを探すSFミステリー。

・『六花の勇者』(山形石雄)
ファンタジー世界を舞台にした、仲間の中に1人「敵」がいるフーダニットもの。

・『魔王殺しと偽りの勇者』(田代裕彦)
名乗り出た4人の勇者の中から「本当に魔王を殺した」1人を見つけ出すフーダニット。

・『嘘の木』(フランシス・ハーディング)
少年少女の青春物語かつ、「食べたものに真実を見せる」実がなる木を巡る特殊設定ミステリー。

・『月は地獄だ!』(ジョン・W・キャンベル)
月を舞台にしたサバイバルもの。

・『火星の人』(アンディ・ウィアー)
「オデッセイ」というタイトルで映画化もされた、火星でひとりぼっちになった宇宙飛行士のサバイバルSF。

・『そして誰もいなくなった』(アガサ・クリスティ)
『彼方のアストラ』は『そして誰も〜』をホワイダニット(なぜこの人たちが集められたのか?)を主軸にやった作品としても読める。


<その他>
・『インターステラー』(映画)
惑星の冒険はもちろん、冒頭の謎がSF的に解決されるのが素晴らしい。

・『EVER17 –the out of infinity-』(ゲーム)
閉鎖空間を舞台にしたSFサスペンス。『彼方のアストラ』が好きな人には間違いなくピッタリはまる。